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ジャンルフリー生活ログ

ブレイディみかこ「ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート(第2版)」岩波書店, 2016

感想

 政治というものが、伝統ある席取りゲーム以上に見えなくて、我が事としての関心が持てない私が、政治について何か考えてみたくなる気持ちになった。読むきっかけは全くそんなものではなく、ただ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」が面白かったから、著者の他の本も読みたくなって適当に手に取ったのがこれだった。あちらは随筆でこちらは政治時評なので、調子は異なるが、期待通り、ユーモアが効いていて面白かった。読んでから知ったが、2021年11月に最新時評を加えた改訂版ヨーロッパ・コーリング・リターンズが出ていたので、そちらも読みたい。

 著者は「地べた」を自称する通り、労働者階級で左側よりの視点の批評である。私は自分がどちらよりの考えの持ち主かわからないレベルの無関心だったが、読み進めるうちに左側の視点がなんとなくつかめてくる。また、外国を舞台にした労働者階級の当事者目線で語られるからか、実感がわかない事情も素直に読めた。この辺は、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読んでいたことも影響したと思う。

 この「素直に読めた」ところが、冒頭の「政治について何か考えてみたくなる気持ち」につながったと思う。本書は読者に英国政治の前提知識をほとんどを求めていない。よって、知らないことを恥じたり悲しんだり罪悪感を覚えることもなく、現実社会の問題をある面から解読することができる。本を読む間、私はこんなことも知らなかったのかと思う気持ちが続くのは、疲れるし気分が下向きになるが、本書はそういうことがなかったので、読み終えてそのままの考えを巡らせることができたのが良かった。

 与党は既得権益と国際経済に基づく利益を重んじ、野党は与党でない政党でしかない状況に対して、投票する先がないと嘆くミドルクラス。彼らの前に現れたのは、従来の経済中心の政策を否定し、暮らしを中心に据えた方針で国を運営するという強い信念を持った政治家だった。スコットランド、英国、スペインで起こったことは、簡単に言えばこういうことだと思う。人々が熱狂的に彼らを迎えたことは理解できる。一方で、退屈な閉塞感に覆われているとき、これまで目の前にあったものと全く異なる力強い何かが現れたら、それがよかれ悪しかれ吟味抜きで熱狂する気持ちもわかる気がした。何か新しいことが起こりそうという予感は気分が良いし、今より悪くなることはないと思えば大胆な賭けのリターンは青天井になる。2016年から2020年にかけてのアメリカは、遠目には何がなんだかわからないお祭り騒ぎに見えていたが、文字通りお祭り騒ぎだったんだと、今更ながら納得し、同情し、その熱狂には一抹の羨ましさを感じた。

読んだ本の概要

 英国で労働者階級として暮らす日本人の著者による英国政治時評。ミドルクラスを振り回してきた政治と経済、英国政界に地殻変動を引き起こす国内・EU内の新興勢力の動き、それに対する様々な階層のリアクションへの論評が中心。ちなみに本書はBrexit決定前まで。3つの章に分かれていて、章には題名がないが、こんな感じの章立て。

  1. 2014~2015の英国の「地べた(労働者階級)」の現実
  2. 地べたの人々を惹き付ける新たな政治勢力の台頭
  3. 人々が色々なスケールで階層化され分断されたことによる複雑な混乱